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よ う こ そ
 おとぎばなし 翼の部屋
   Welcome to world of fairy tales TASQ.

        健全な青少年育成には、夢を描けるメルヘンが、

 なによりのツールです。

  通読され、あなたが面白かったら、子供にも

 読んであげて下さい。

 

   自動ヴァイオリン 1900 年初頭 (アメリカ)

 

 

音楽 4

黒の燕尾服

 

 ボクは今、黒の燕尾服を纏い、白い蝶ネクタイを締めて
オーケストラの一番後ろにいる。
この際だから、オーケストラの人たちを少し紹介しよう。

まず、一番前で棒を振っているのが「指揮者」。
この人だけが楽器を持たず、歌うこともない。
スポーツで言えば監督のような人で、自分でプレーすることは殆んど
ないと言ってよく、そのくせ自分の考え通り音楽を進めようとし、
誰よりも良い音楽を作らなければ、みんなは着いてこない。
だから指揮者は一番大変な仕事で、天才であるばかりか、
グイグイ人を惹(ひ)きつけるカリスマ的 人ほど人気が出るから、
地味な人は少し損だ。

次はコンサートマスター。
ヴァイオリン30名ほどの中で、指揮者に一番近い所に、
コンサートマスターがいる。

スポーツで言えば、キャプテンか選手会長のことで、
オーケストラ団員の総まとめをする。
指揮者が いくら棒を振っても、コンサートマスターがスタートしないと、
オーケストラは始まらない。
それほどオーケストラにとって重要な存在だ。

そのほか沢山の楽器がオーケストラでは使われている。
ファゴットやティンパニーなど、耳慣れない楽器も多く、
しかし良く知られたサクソホーンなどは、オーケストラで使用
されないから不思議だ。

ボクが今 オーケストラの中にいるのは、ボクが今回
「ドラ」を打つ役目だからだ。
それが・・・・・・・・それが・・・・・・・・・。


ボクはピアノを習っている。
始めたのが小学一年生だったから、特別 早い方ではない。
姉は四歳から始めて、小学一年生では もうソナタを弾いていたから、
いつも姉と比較されバカにされている。

姉は、楽器店主催のコンクールで「金賞」、
ピティナ ビアノコンクール小学生部門で 一位入賞と、いつもトップだ。
姉のコンクールに着いて行ったことがあるけれど、みんなすごい。
参加した全員が指がまわるというか 技術的に弾けることはあたりまえで、
どう弾きこなすかではなく、楽譜をどう解釈し、どう表現するかで
審査されているのだから。

幸いボクたちが習っている先生は、響きに対するバランス感覚に
うるさいから、姉も入賞できたんだと思うけれど。


そんな姉にボクが初めて並んだ。
アニメソングに まねて作曲したら、少年少女作曲部門で賞を
とってしまったんだ。「ラッキー」

これがきっかけで、思わぬ経験の連続だった。
まず、オーケストラの人たちと知り合いになったこと。
オーケストラで使用する たくさんの楽器を知り得たこと。

オーケストラは、普通 百人から百三十人ぐらいの団員がいて、
合唱隊
が入ると 三百人近くにもなるそうだ。
マネージャーの人が、「これだけの人たちに給料を払うのは
大変なんだよ」 と笑っていた。

ボクは、「ゲネプロ」と云われる リハーサルも見学できた。
団員の方々は、仕事で毎日弾いているし、元々各音楽大学の
トップクラスの中から さらに選りすぐられた人たちだから、どんなに
難しい曲でもスラスラ弾けるので、練習などしないのかと思ったら、
それが ものすごく練習をするんだ。

リハーサルもすごい。
わずか十小節たらずの所を、二時間も掛けてやり直したり、
まるで弦楽四重奏のマンモスのように
緻密に音楽を仕上ているんだから。

そんな団員に交ざって、ボクも参加かすることになった。
・・・といえばカッコ良く聞こえるけれど、たったの一回
ドラを「ゴン」と打つだけ。
こんなの誰にでも できるよね。
それでも黒の燕尾服に 白の蝶ネクタイという恰好で、
見掛けは すっかりオーケストラ団員。
何となく こそばゆくて、喜んで良いのか、舞い上がっちゃいけないのか、
とても複雑な気持ちだ。

リハーサルでは、自分の打つ所を教えてもらい、二・三回練習してOK.
ボクは当日まで何の心配もしていなかった。
客が ぞろぞろホールに集まり、客席が埋まってくると、
ボクもだんだん緊張してきた。
そして大変な事を忘れていた事に気がついた。
ボクが打つところは 一回だけ。
もしそのタイミングを外せば、もう出番がないまま終わってしまう。
ボクは何をしに そこに居たかのかは分からない。
「これは大変な仕事だ」、とようやく気がついた。

「タイミングだ。タイミングだけ外さなければ いいんだ」

客の拍手をうけ指揮者が入場すると、ボクの頭は もう真っ白だ。
コンサートマスターが じっと指揮者を見ている。
コンサートマスターの弓が「ピクッ」と動くと、演奏会が始まった。
それにしても オーケストラはすごい。
その楽器が持つ微弱な音は、文字通り蚊の鳴くような音だし、
フル オーケストラという 全員が強奏する所では、格闘技のように
楽器にエネルギーを与え ホールが割れそうだ。

どの楽器 演奏者も、過不足のないタイミングで入り 抜けて行く。
メロディーを受け持つ人の リードする音の強さ。
それを支える役の 絶妙な音量。
そしてトゲトゲしい音色、優して温かい音色、
色を失ったような 乾いた音色。
一人一人が、心臓だの 腎臓だの 大腸だのとの役目をして、
一つの巨大な生物が うねるようにも聴こえてくる。

ボクは必死で、パート譜とスコアを追っていた。
なにしろ 今どこを弾いているのか分からなければ、打つタイミング
どころではない。
がしかし、始まって二・三分もしないうちに、もう分からなくなって いたのだ。

「どこだ。どこだ。」
音楽をしっかり聴き、いくら楽譜を目で追っても分からない。
あっちのページ、こっちのページと開き 必死にさがす。

ボクは もう完全にパニックだ。
「ここだ」と思って聴いていると、やはり違う。
「あぁどうしよう」 もう泣きぺそ顔だ。

オーケストラは 何事もなく進んでいる。
必死で音を聴いているせいか 美しい。
一つひとつの音に立体感があり、力が含まれている。
いろいろのフレーズが、泉から湧き出る水のように、
きれいな光の縞を広げ 消えてゆく。
一つが消えると、次が色を変え 辺りを染めてゆく。
それが重なったり、ピチピチ跳ねたり、追いかけたり・・・、
突然 祈りのフレーズに入り、一種独特の 暗いメロディーが流れる。

「こんなに素晴らしい音楽を みんなが作っているのに、
それをボクが壊してしまうんだ」
「もう駄目だ。ボクにはもう分からない」

ずいぶん長い間さがしたが、完全に分からなくなった。
ボクは諦め、自分の打つページを開き、指揮者の動きをじっと見ていた。

指揮者は口を「へ」の字にまげ、頭から湯気を出し、足を踏み鳴らし、
まるで鬼のような顔で指揮をしていた。
それはきっと ほんの短い時間だったのでしょうが、ボクには
針のむしろに立っているようなもので、ものすごく長い時間のようでした。

強奏のフレーズが終わると、急に静かなフレーズに入りました。
指揮者の顔もやさしくなり、ボクの方を向いています。
「あれっ。指揮者が うなずき笑っている」
「そうだ。ここだ。」
「ボクの打つ所の響きだ」
「指揮者が合図を送ってくれたんだ」
「ここだ。ここだ。楽譜が読めた」
「指揮者を見て、合わせればいい。」

今だ !!   「グウァーーン」 ・・・・・

fine

 

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点描画  工藤 優飛(中2)