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よ う こ そ
 おとぎばなし 翼の部屋
   Welcome to world of fairy tales TASQ.

        健全な青少年育成には、夢を描けるメルヘンが、

 なによりのツールです。

  通読され、あなたが面白かったら、子供にも

 読んであげて下さい。

 

   自動ヴァイオリン 1900 年初頭 (アメリカ)

 

 

音楽 2

ヴァイオリン少年とヒゲのないネズミ

 

 静かで小さな町がありました。
町には公園、児童館、スポーツ施設などが沢山あり、平和で福祉の
行き届いた町でした。
だからといって、幸せな人ばかり住んでいるとは限りません。

町のはずれには、元気に遊ぶことのできない、片足の少年がおりました。
だから、近所の子供たちが遊ぶときでも、仲間に入ることができないのです。

少年はヴァイオリンを練習していました。
先生はお母さんです。
お父さんもピアノを弾いたり、絵を描いたりしますから、お父さんが
見てくれる時もあります。

何しろ、外で元気良く遊べないものですから、家の中でヴァイオリンを
弾いているのが、少年のささやかな楽しみでした。

少年は、めきめき腕を上げていきました。
近々 教会で音楽会があるというので、少年は夜遅くまで練習していました。
この音楽会への出場は、お母さんが少年の励みになるようにと
頼んできたものでした。

少年の家には、一匹のクマネズミが住んでいました。
名前はクマなんて強そうでも、小さくて可愛らしいネズミなんですよ。

少年が毎晩とても美しい曲を弾くものですから、クマネズミはヴァイオリンが
すっかり好きになってしまいました。
「そうだ、今度ちょっとのぞいてみよう」
ネズミはそう思って、少年の寝るのを待ちました。
「しめしめ 寝てしまったぞ」
ネズミはヴァイオリンに近づくと、上の穴から するするっと中に
入りました。
「うぁーっ あったかい。それにとってもいい香りだ。」
ネズミはヴァイオリンの中を駆けずり回り、体中で喜びました。
「うーん 気に入った。ここなら毎晩遊びに来てもいいな。
明日はここで食事をするなんていうのもいいな。」
ネズミは自分のお城を見つけたような気持ちで、とてもハッピーな気分でした。

次の日も、またあくる日もヴァイオリンに忍び込み、めまぐるしく駆けずり
まわったり、ちょっとお休みと寝てみたり、食事やおやつも良く食べました。

歯が かゆくなるので、口直しにその辺りをよくかじりました。
中はボロボロ、周りもすっかり汚してしまいました。
ネズミは、自分がヴァイオリンを駄目にしたとは、全く気が付いていませんでした。

ある日、少年が弾くヴァイオリンの音をきいたネズミは、今までのヴァイオリンと
比べ、あまりにも変な音を出す楽器になっていたので、びっくりしてしまいました。

さあ大変です。教会での音楽会はもう間近です。
少年はお母さんに云い、お母さんはヴァイオリン店に持って行きました。
ヴァイオリン店では、「このヴァイオリンは使えない」と云い、別の新しい
ヴァイオリンを貸してくれました。

しかし、このヴァイオリンの音も、あまり良いものではありませんでした。
その音は、おもちゃのような音を出し、荒削りで音だけ大きな品のない
楽器でした。

「ぼくがやったんだ。ぼくがいけなかったんだ。」
ネズミはすっかり責任を感じてしまいました。

ネズミが通りに出て考え込み歩いていると、一つの鈴を蹴飛ばしました。
「チリリーン」
ネズミは はっとして、もう一度蹴飛ばしました。
「チリリーン」
「こ・これだ」。ネズミは小さな鈴を拾うと、自分の巣にもどりました。

「ほかに何かないかな」
目をきょろきょろさせ、周りを探しました。
屋根裏から木片を拾うと、そのまま夜を待ちました。
音楽会は、いよいよ明日に迫っていたのです。
少年の寝るのを待ち、鈴と木片を両脇に抱え、ヴァイオリンに
潜り込みました。
「みつからないかな」 なんとなく胸がドキドキしました。

翌日 少年は おめかしをして、家族で出掛けました。
教会に着くと、皆きちんとしたドレスや洋服で着飾り、舞台も
音楽会用に設えてありました。

教会は、青や赤、それに紫や茶のガラス窓になっており、
それがとても教会らしい光を作っています。
また天井も高くて、そのせいか音が良く響きます。
その事は誰もが知っており、大声を出す人も、走りまわる
子供もいません。

いよいよ音楽会です。
最初は、皆でやる合奏です。
少年は第一ヴァイオリンですから、いちばん大事な役目なので
少し緊張しています。
神父様が指揮をして、みな真剣な眼差しで始まりました。

さぁー いよいよネズミも出番です。
少年の弾く曲に合わせ、大きく小さく鈴を鳴らしました。
ネズミの振る鈴の音は、教会の高い天井にこだまして、
「チリチリチリ」と良く響きました。
ネズミは、今度のヴァイオリンの高音が、とても気になっていたのです。
少年が高音を弾くたびに、一生懸命 鈴を振ると、キラキラ輝いた
美しい音に変わりました。

二曲目は、全員が指ではじいて音を出し演奏する、ピチカートポルカです。
良い音を出すためには、右手ばかり工夫するのでなく、
指板と弦を左指でしっかり押さえることです。
ネズミは、少年が何度も試していたので知っています。

「ポ・ポ・ポ・ポ・ポン・ポン・ポン」とリズミカルに始まりました。
ネズミは、用意していた木片を巧みに鳴らしました。
泊の頭では、小さく鈴も鳴らしました。
神父様も満面に笑みを浮かべ、踊るような仕草を織り交ぜ、
指揮を終わらせました。

合奏も終わり、次は 日頃の練習を発表する一人ひとりの演奏です。
どの子もしっかり弾けました。
そして最後は少年の出番です。
少年は、先程からネズミが鈴を鳴らしていたことを知りません。

少年は、家で練習してきた曲を、心で歌いながら、力を込めて弾きました。
力を込めた音は、上辺を撫ぜる音とは違い、心の奥底まで沁み込みます。
聴衆は、固唾を呑んで聴き入っています。

ネズミも負けてはいません。
少年が繰り返し練習をしているとき、曲をすっかり覚えていましたから、
どこで鈴を鳴らして良いかちゃんと心得ています。
ヴァイオリンの音は、暗く明るく、いつしかヴァイオリンから飛び出し、
小人がダンスをしているかのように、教会中にこだましました。

素晴らしい でき映えでした。
少年が弾き終わっても、一瞬 誰からも拍手が起きません。
少し間をおいて、割れんばかりの拍手と喚声が巻き起こりました。
「ブラボー、ブラボー」
合奏した仲間は、みな舞台に上がり、次々に握手を求めてきます。
「アンコール」、「アンコール」。拍手が波打っています。
もう とても収まりそうにありません。

少年はもう一曲弾くことにしました。
それは自分が作曲した、短調でも長調でもない曲です。
郷愁に満ちたその曲は どこか物悲しげで、少年の境遇と重なり、
人々の心を強くうちました。

しかし少年は違っていました。
片足のハンデなど、なにも気にしていませんでした。
片足だからこそ、こうして運命の出会いがあるのです。
少年は、今日の音楽会に、とても満足していました。

ネズミも影の大役を果たし、ほっとしていました。
なにしろ鈴を激しく振ったり、木片を打ってリズムにアクセントを
付けたりと、もう必死でやったのですから。

しかし今回の成功は、少年にとってもネズミにとっても、
一つの事件となりました。


珍しく今日は、少年とお父さんお母さんの三人で話をしています。
ネズミは、そば耳を立てていました。

何でも少年が旅に出るとか、オーディションがどうとか云っています。
この前の演奏が、有名なアーチストの耳に入り、デビューへの道が開けた
とかも云っています。
どうやら少年が旅に出ると、暫く戻らないらしいのです。
ネズミは「はた」と困りました。
「何故」って。
それは、町から遠い大都会で行われるからです。
もう少年と一緒に着いて行くわけにいきません。
そんな事をしたら、食べ物も水も無いところで、死んでしまうでしょう。

ネズミは鈴と木片を眺めて考え続けました。
「この前遊んだ時のように、いっぱい食べ物を持ち込んで・・・・
いやいや それは音に悪いな。 うーん、何か方法があるはずだ。」

しばらく外を歩いてくることにしました。
春の風がゆるやかに梢を過ぎって、静かに木の葉がゆれていました。
「そうだ ! !  これだ ! ! 」
ネズミはその辺りから、針金だの、糸くずだの、いろいろ拾い集めました。
そしてそれを家に持ち帰ると、またヴァイオリンの中に忍び込みました。
ネズミは何やら真剣な顔でやっています。
それは、鈴をヴァイオリンの中に取り付けようというのです。
針金を釣竿のようにして、ご飯粒で貼付け、先に糸を結び鈴を取り付けました。
苦労してやっとできました。
あとは、少年がヴァイオリンを弾き、鈴が自動的に鳴るか聞いてみるだけです。

翌日になって、少年が弾き始めました。
ネズミは、期待と不安で胸が熱くなりました。
駄目です。全然駄目です。
少年が、深く大きく弾いても 激しく強く弾いても、鈴は「ことり」ともいいません。
「やっぱり駄目か」 ネズミは鈴を自分の巣に戻し、また考えました。
考えているうちに眠くなり、頭が「カクッ」と落ちました。
そのときヒゲが鈴に触れました。
ネズミは、ビックリして飛び起きました。
そしてまた鈴を持つと、ヴァイオリンに飛び込みました。

「ああ」 何と自分のヒゲを抜いて、鈴を取り付けているのです。
ヒゲは、ふわふわ ブルブル よく震えました。
あとはやはり、少年がヴァイオリンを弾いてくれるのを待つだけです。

翌日 少年がヴァイオリンを取り上げ、静かに弾き始めました。
静かに引き始めたその曲も、次第に佳境(クライマックス)に入ってきました。
「うん」 何か聞こえます。
やりました。小さく、しかしはっきりと鈴の音が輝いています。
それは 鈴虫が鳴くように上品に、しかもネズミが自分で鈴を
振っていた時よりも、少年の呼吸に合わせ自然に鳴っているのです。

ネズミは小躍りしました。
あとは木片を同じように取り付けて、それでお仕舞いだ。
ネズミは、もう成功したような気持ちでいました。
ところが、その木片が大変だったのです。
何回も挑戦し、何度やり直しても、うまく行きませんでした。

さて少年は、この頃ヴァイオリンが急に美しい音を出すようになったので、
とても不思議に思っていました。
オーディションも間近に迫っていましたから、夜も遅くまで練習していました。
そこで、時々 休憩を取りながら一日中 弾いていましたから、
慌てているのはネズミの方です。

まだ木片がうまくいっていないのに、時間だけが過ぎ、オーディションに
間に合わないかも知れません。
そこで ちょっとしたスキをみつけては、忍び込みました。
「ことり」 と小さな音がしました。
ネズミは夢中でしたから、ちっとも気が付きませんでした。

少年は、ゆっくり立ち上がると、そっとヴァイオリンの中を覗いてみました。
そして何もかも分かってしまったのです。
それからは、ネズミがヴァイオリンに出たり入ったりするのを見ていながら、
知らん振りしていました。
そんな事とは知らないネズミは、時間に追われ、必死で実験しています。
ヒゲを一本抜き、また一本抜き、そしてとうとう全部抜いてしまいました。
それを束ね、木片を取り付けました。
なにやら この前あたりから、うまく行きそうな気配でした。

いよいよ明日は出発の日です。
少年はヴァイオリンを金属のケースに入れ、わざと蓋を開けておきました。
そんな事とは知らず、ネズミはまた忍び込み、最後の調整をしていました。
ヴァイオリンのケースの蓋が、ゆっくりと閉められました。

「ああ」 少年は、にやり と笑っています。
この前 大事なヴァイオリンを駄目にされたお返しでしょうか。

金属のケースは朝になっても開けられることはなく、少年はそのまま
オーディションに持って行ってしまったのです。
少年の家から駅までバスに乗り、そして汽車に乗りました。
ゴトゴト汽車はゆれ、長いながい旅の始まりです。

ネズミは心配していた事が、現実になってしまいました。
こんな事にならないよう何日も掛かって作業してきたのに。・・・・・・・
真っ暗なヴァイオリンの中で、うろうろ歩き回りました。
ヒゲはネズミにとって、ふらふらしないための(平行感覚)、大切なものです。
そのヒゲが無いものですから、あっちへふらふら、こっちへふらふら、
まるで糸の切れたタコのようです。

ヒゲが無いだけで ふらふら しているのではありません。
おなかが空いているのと、水も食べ物も無い所で、生きていられる筈も
ないという不安からです。

もしヴァイオリンの蓋が開けられ、素早く外に飛び出したとしても。
ヒゲが無くなった今では、まともに逃げられる筈もありません。
前には大切なヴァイオリンを駄目にしたボクです。
きっと捕まり殺されるでしょう。

ネズミはヴァイオリンの中をぐるぐる回り続けました。
そうしているうちに、この短くも楽しいひとときを思い出しました。
毎日美しい音で少年が練習しているのを、屋根裏で聴いていた時のこと。
食べ物を持ち込んで、木の香りの中で食事をした時のこと。
歯が痒いとヴァイオリンをかじったこと。
鈴を振って少年と一緒に皆の拍手を受けたこと。
自分のヒゲを抜いて鈴をヴァイオリンに着けたこと。
そして ゆっくりとケースの蓋が閉められたこと。
ネズミは、不安と疲れで眠ってしまいました。

どの位眠ったことでしょう。
ネズミは目を覚ましましたが、真っ暗な金属のケースの中は変わりません。
ネズミは、もうすっかり諦めていました。
おなかが空いているのも忘れていました。

暗闇だけが周りを包み、・・・・・いや、向こうがぼーっと 本当にぼーっと
光っています。
ネズミは、自分の頭が変になったと思いました。
そこは死んだときの、自分が行くところだとも思いました。

ネズミは立ち上がって、ふらりふらりと光に向かって歩いて行きました。
僅か十三歩ばかりのところでしたが、これまで歩いて来た距離よりも長く感じました。

光は、幻ではありませんでした。
「ああ」 大好きな ボクの大好きなチーズが置いてあるではないですか。
チーズが暗闇の中で発光し、そのチーズには何か文字が書いてありました。


「クマネズミのチュー助くん。君はボクの友達だ、いやボクにとって最も大切な
パートナーだ。もうボクの目を忍んだり会っても逃げたりしなくてもいいんだよ。
今度のオーディションも 君のおかげで きっと成功に終わるだろう。
ありがとう 本当にありがとう ! ! 」

fine

 チュー助くんが 少年の肩に乗った写真が欲しかったら 君に送ってあげますよ。

 

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点描画  工藤 優飛(中2)