Pianoアラカルト

 


日本楽器製造株式会社、これは現在のヤマハである。
  私がまだ若く、このヤマハピアノの音しか知らなかった時代に、
 友人に誘われ、とあるお宅を訪ねた。
 ニコニコして 迎えてくれた主人は、30 畳ほどある部屋に 我々を案内した。
 ここは個人宅で、いま考えると そうとう広い部屋なのだが、その時は、
 そんな事に思いも及ばなかった。
 部屋そのものは しゃれっ気がなく、床は板張でグランドピアノが四台、
 アップライトピアノが二台ほど置いてあり、一見すると何の変哲もない。
 しかし、その中身がすごかった。
 スタインウェイ、ベヒシュタイン、ブルッツナー、エラール、アップライトピアノの方は、
 記憶に残っていないが、とにかく世界の名器を一堂に会していたのである。
 日本のピアノの音しか知らない私は、興味津々である。

 主人がスタインウェイを弾き始めたとき、そのカルチャーショックが
 現実のものとなった。
 なんて品格の高い音だろう。・・・・なんて麗しい音だろう。
 私は調律の勉強もし、ピアノ修理工場を手伝っていたこともある。
 しかし、知らなかった。ピアノにこんな可能性を秘めているなんて。
 主人は、いろいろ話しながら、次々と試弾した。

 私が感心したのは、ベヒシュタインの低音である。
 それまで聴いたことのない低音で、言葉で表現しにくいが、
 太く芯があって柔らかい"・・・と矛盾した表現しか出来ない。
 私はその秘密をすぐ発見した。
 ピアノハンマーは、通常 卵形をした楕円形である。
 ベヒイュタインのそれは、菱(ダイヤ)形だったのだ。
 その経験は、何年も後にまた勉強の糧となった。

 エラールを弾き始めたとき、第二のカルチャーショックを受けた。
 エラールはフランス製のピアノだ。
 何と "フランスの音がする。"・・・・と感じてしまった。
 今から考えると、少し違うかなと思うが、その時はこれぞフランスの音と
 信じてやまなかった。
 どんな音がしたかって?? 澄んでいた。透明だった。寒色系の音だった。
 柔らかく暖かい音を暖色系の音とすると、清楚で何の混じり気のない透明なおとは、
 フランスの音だと思って大いに感心してしまった。 
 アップライトのピアノも、半端じゃない良い音がしていた。
 ブルッツナーの音が、どんな音がしたかって??。
 私が感じたのは、線の響きだった。
 ロマン派ちょっと以前の曲に、とても合いそうな線の響きだった。
 これは、きっと正しくブルッツナーを評価していないと思うから、
 これを参考にしないでください。

 世界にはいろいろなピアノがあり、それぞれ自国や自社のポリシーをかたくなに守り、
 美というのは、絶対的なものでなく、それぞれが存分に美しい名器が存在する。・・・・と
 貴重な体験をした思い出である。

 東京音大(東京池袋)に、ヤマハグランドピアノ二十台を納品したことがある。
 そのとき、カワイは十台あまり、スタインウェイ、ベーゼンドルファーなども
 同時期に納品されていた。
 音大には、専属の調律師が常駐しており、納品されたばかりのベーゼンドルファーを
 聴かせてくれた。
 私が経験したピアノの中で、ベーゼンドルファー以上のピアノはない。
 ベーゼンドルファーでは、「整調・整音」に千時間を掛けているというが、
 完璧なピアノが納入されていた。
 ヤマハ・カワイとは、月とスッポン。誰が聴いても格の違いは明らかだった。

 ある縁で、私がベーゼンドルファーの工場長や技術部長に教えを乞う機会を得た。
 3〜4日づつ二回。つも一週間ほどだが、[整調・整音」についてノウハウをバッチリ教わった。
 そのとき私が質問したのが、先に書いた菱形のハンマーについてである。
 この頃は、ハンマーの形で音質が異なることを知っていたから、整音作業で
 ハンマーを削ることがあるから、そのときハンマーを菱形に成形してはいけないか、
 質問をぶっつけてみた。

 明快な答えが返ってきた。
 「ハンマーを製造する時のことを考えてください。
 ハンマーのフェルトは層(玉ネギやバームクーヘンのような)になっていて、
 その層を斜めにカットし破壊してしまうので、それはいけない。」
 云われてみれば、その通りである。

 「ピアノは、設計段階で、どういうハンマーを選ぶかでそのポリシーが決まり、
 オリジナルの形を残しながら作業する。」
 世界トップレベルの技術と伝統を伝承していただき、工場長ライスさんや、
 技術部長その他のスタッフの方々に感謝している。

 尚、ヤマハやカワイでも、「整調・整音]の作業をきっちりすることで、
 何ランクも上のグレードになるということも、知ることが出来た。

 これとは別だが、ハープシコード(チェンバロ)の講習会で勉強したこともあるので、
 今度こちらも書きます。


リンクページをご覧ください。

  ピアノ 防音    メルヘンへの誘い などなど

 

メールください